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さらば、ふるさと

 無人島に一つだけ持ち込めるなら? っつー話になった時、だいたい人って五パターンに分かれると思うんです。サバイバル用品や生活必需品、食糧なんかを答える「生真面目型」、そもそも無人島で生き抜くことを考えない「脱出志向型」、レジャー用品や嗜好品を挙げる「刹那主義型」、自分のキャラクターをアピールしたり大喜利に走る「自己主張型」、もはや質問の意図が伝わっていなさそうな「人格破綻型」ですね。

 まあ、どれを選んでも結局は普通に死ぬんだけど、面白いのが人によって答えはほんとにたくさんあるわけで、これだけ色々な答えがあるなら、ある程度性格判断なんかにも使えそうだな、なんて思って。なので今回は、俺が今までに読破した数々の行動心理学や精神分析学に関する知識に基づくことなく、独断と偏見で性格診断をしたいと思います。無人島に持ち込む一つのものを頭に浮かべながら、読み進めてください。

 

生真面目型

 おそらく大多数の人たちがこれに当てはまります。よく言えば堅実ですが、その実態を一言で表すと「無難」。指示通りに何かを続けることが得意で「平均点こそが満点」を旨とし、大きな成功はないけど大きく躓くこともない。しかし今まで大きな失敗をした経験がないため、心の中では自分は正しいと思っているプライドが高い一面もあります。

「ナイフ、ライター」派

 生真面目系のちょうど中心に位置する「ナイフ、ライター」型は、生真面目系の傾向を強く持っています。公務員が正常位で子供を作ったらこう育つだろうという感じですね。知識が豊富にある反面、頭でっかちになりやすく機転や想像力もないので、実際に無人島に行くと魚や動物をナイフだけで捕れるはずもなく、結局持て余したナイフや火を眺めながら「普通に水を選択しとくべきだった」と後悔しながら死にます。

「水、食糧」派

 生真面目系の中でも特にプライドが高く無意識に人を見下す傾向にあるので、自虐風自慢や自分の知識をひけらかすことを好みます。また自分の選択が常に正しいと思い込む視野狭窄さも大きな特徴です。しかしそのプライドを支える選択眼は確かなもので、ある意味では生存できる可能性が高い人たちとも言えます。もっとも何の解決にもなっていないので、徐々に減っていく備蓄に恐々としながらゆっくりと死にます。

「釣り竿」派

 大抵のことはそつなくこなし、人から「要領が良い」「器用だ」と思われることが何より嬉しいと思っているタイプです。人柄もいいので学生の頃はそこそこモテますが、挫折に極端に弱いので突然人生をドロップアウトしたり、みんなが大人になる頃に底の浅さが露見する場合があります。何かの拍子に釣り針を食い千切られたあと、くるくる回るおもちゃの付いた長い棒に成り下がった釣り竿を抱えながら死にます。

 

脱出志向型

 いたずらに生存日数を伸ばしても無人島に居る以上生き続けることは不可能であり、リスクを背負ってでも無人島から出られる可能性を高めるべきだと考える合理的なリアリストです。しかし独善的な面もあり、周りから感情のないサイボーグのような印象を持たれることも多いのですが、実際はそう思われることが格好良いと思っているかなり人間臭い人たちです。生真面目型を心底見下しています。

「無線機、ラジオ」派

 理系学部の院生。アマチュア無線の三級を持ってます。「電気なんかどこにもないじゃん」と言っても、メガネをクイッと上げながら、海水から電池を作る方法を説明してくるハイスペックなタイプです。ただまあ、本人が生粋のかませ犬なので、本番の無人島では成功しなくて「ば……馬鹿な……私の計算に狂いは……」と言いながら死にます。

「発煙筒、双眼鏡」派

 生き延びるという選択肢を完全に捨て、天に運を任せるこのタイプはある意味で最も合理的なのかもしれません。レンズを反射させて位置を知らせたり、うまいこと火を起こしたり、とにかく自分が生きられるであろう数日の間でいかに発見されやすくするかを考えます。当然そんなうまい話はなく、普通に数日後に死にます。

「毒薬、聖書」派

 何も無人島から出ることだけが救いではありません。彼らにとっては死でさえ救済であり、それが神の思し召しならば喜んで受け入れるのです。誰がこの選択を笑えるのでしょうか。彼らだけが現実に向き合い、そして一つの答えを出したのです。アーメン。生きるか死ぬかだけで言うなら死にます。

 

刹那主義型

 この型は大きく二つ、自然を舐めてるか何も考えていないかのどちらかです。いずれにしてもただの馬鹿なのですが、人生における最大瞬間風速だけで言うならこの人たちは群を抜いており、無人島という極限状態では、ある意味一番幸せかもしれません。ギャルやハーフタレントはだいたいここに分類されます。

「日焼け止め、手持ち花火」派

 無人島をプライベートビーチくらいに考えていて、事実一日目の夕方くらいまではすごく楽しいんだと思います。馬鹿ですが根本的には気の良い子たちなのでどこか憎めず、特に人に対して偏見もなくみんなと分け隔てなく仲良くなれるタイプです。残念ながら無抵抗のまま死にます。

「スマホ、水着」派

 上のタイプと似ていますが、こちらのタイプはほんの少しだけ頭を使っていて、だからこそその工夫した痕跡がもの悲しくもあります。このように、このタイプは周りから憐れに思われている可能性が非常に高いです。「写真撮れるし助けも呼べるじゃん!」「泳ぐためには水着が必要っしょ?」とこの人たちなりの考えがあるのですが、無人島は圏外であり、インスタグラムに載せるために撮ったその自撮りは遺影になります。そしてこの島にはあなた一人しかいないので水着は要らないのです。自分の馬鹿さ加減に泣き疲れるようにして死にます。

「酒、煙草」派

 どうせ死ぬならと選ぶのであれば悪くない選択肢です。が、このタイプはそうではなく「どうせなんとかなる」と考えているのです。何の根拠もないくせに、問題に直面してもその時は自分に突然神がかり的なアイデアが沸いてきて解決できると思い、提出物やテスト勉強も直前まで放置しがちです。そして予定通り無事に死にます。

 

自己主張型

 このタイプは「終わり」です。彼らにとっては「無人島に何を持って行くか」など少しも興味がなく、いかに自分のユーモアや可愛さをアピールできるかしか考えていません。自己中心的で自分をムードメーカーだと勘違いしていますが、その実態は性欲の権化です。基本的に空気が読めず皮肉も通じないので、ここはお前の個性発表会じゃないからさえずるな、と素直に伝えましょう。また、ここまで読んで「俺っちどこにも当て嵌まらないわ〜(笑)」なんて言ってる奴は全員これです。

「ギター、iPod」派

  とにかく自分が話の中心に居ないと気が済まないタイプで、「ギターがあれば良いかな(笑)」とか「音楽がないと死んじゃう」などとトチ狂った妄言を並べ立てることが特徴です。他人と違うということでしか自分を見いだせず、また知識を軽視する傾向にあるのですが、本当に無人島へ行くことになったら真っ先に生真面目型の真似をしてナイフを挙げて、死にます。

「パスポート、希望」派

 典型的な「場違い大喜利野郎」ですね。普段は面白い人として周りから受け入れられているのですが、本当に面白い人たちには敵うはずもありません。このような場で敗者復活戦を仕掛ける空気の読めなささからも分かる通り、真面目にしなければならない時や怒られている時もヘラヘラしているので周りからの信頼はありませんし、一部の異性からは極端に嫌われています。基本的に無害な存在ではありますが、『RADWIMPS 3〜無人島に持っていき忘れた一枚〜』などと言い始めたら一度低めのトーンで注意しましょう。彼らはその陽気な性格の反面、かなり臆病なのでそういう空気感には敏感です。意外なほど簡単に死にます。

「ドラえもん、ヘリコプター」派

 自己主張型の中でも一番の害悪、今まで紹介した各型の悪いところだけを濃縮して煮込んだ二日目のカレーがこいつらです。知識もユーモアもないのに自己主張と自意識だけは一人前、自分が同じ舞台に立ててないことにさえ気付かないカスの親玉です。間違っても「ドラえもんなんて居ないじゃん(笑)」「ヘリコプター操縦できるの?(笑)」などと相手のフィールドに上がって場を和ませてはいけません。誰かが一回分からせなきゃいけないんです。ボッコボコに殴りましょう。もし「だ……誰か……警察……」と言われたら、「ああん!!!!!? そこは警察じゃなくてドラえもんだろーがよ!!!!! なあ!!!!? 居んだろーが!!!!? ヘリコプターで逃げねえのかよ!!!!?」と、相手がいかに愚かだったかと教えてあげましょう。じゃないと真っ先に死にます。

 

人格破綻型

 このタイプには深く関わっていけません。フリードリヒ•ニーチェが「深淵をのぞく時、深淵もまたこちらをのぞいているのだ」と言ったように、あり余る好奇心というのは時に身を滅ぼすことになります。もし質問をした相手に人格破綻型の可能性がある場合は、ただちに話を変えて様子を伺いましょう。本来この人格破綻型は答えによって分類できないのですが、念の為に回答例を挙げておきます。

「うんこ味のカレー」

 色々と突っ込みたい気持ちはあるのかもしれませんが、ここは黙って引くべきです。脳の中のコミュニケーションを司る部分がハチャメチャになっているので、おそらく対話は絶望的です。曖昧に同意しながら離れましょう。

「スーパーカミオカンデ」

 日本が世界に誇る水チェレンコフ宇宙素粒子観測装置ですね。無人島でニュートリノを検出する必要があるのかは分かりませんが、決して彼らの答えを否定してはいけません。敵意がないことを示しましょう。

「いつもここから」

 アルゴリズム体操やエンタの神様でお馴染みのお笑いコンビです。うん、それ以上の意図はわかりません。大丈夫です。そう。ゆっくり。ゆっくりと距離を取りましょう。

「刑法124条」

 陸路、水路又は橋を損壊し、又は閉塞して往来の妨害を生じさせた者は、2年以下の懲役又は20万円以下の罰金に処する。

「増子直純」

 日本のロックバンド「怒髪天」のボーカル。

「勝ちたいんや」

 2003年の監督・星野仙一指揮下の阪神タイガースのキャッチフレーズ。

「いつもここから」

 喜怒哀楽の観察日記。

「「悲しい時ー!」」

 え? うそ? マジ? 始めんの?

「「無人島に行った時点でどうせ生きて帰れないと分かった時ー!」」

さらば、ふるさと

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