ビキニ環礁シンジケート

書くことが楽しい

フォーマルハウト

 ラジオからフジファブリックの「Bye Bye」が流れてきて、もうなんだ、暴力的に、ブログを書かなければならないという気持ちにさせられた。深夜。いやー七月になったね。ちゃんと今月も判で押したように好きなまま。もはや金太郎飴。朝起きてから夜寝る瞬間まで、俺を構成するものをどの場所で切り取っても同じ切り口のまま好き。怖い話も面白かった話も悲しい話も、俺、今すげえ好きな人が居んだけど、つーとこから始まる。

 こんな状況を知ってる友達や同僚なんかは、告白して振られたら案外吹っ切れられるよ、とか、他の女と寝たらすぐ忘れるっしょ、みたいな言葉を掛けてくれんだけど、あーごめん、そういうんじゃねーんだ、今回。普通じゃねーの。告って、振られて、新しい恋、みたいな話じゃなくってさ。別の女と寝て、忘れて、新しい恋、みたいなイージーモードじゃないのよ。

 いや、やってみなきゃわかんないじゃんつーか、あの、俺さ、それ全部やらかしてんだよね。その、告って、振られて、とか、他の女と寝て、みたいなの一通りやった上で、ドッタンバッタン大騒ぎしながら今日も大好きだって仁王立ちしてるわけ。こんなの本来、遠距離になって相手に彼氏ができた時点で終わった話だったんだけど、死してなお、その体屈することなく――頭部半分を失うも 好きで居続ける その姿まさに"怪物" この片思いによって受けた心傷 実に――二百六十と七太刀――告白をあしらわれた回数 百と五十二回――結婚を申し込んだ数 四十と六回――――さりとて――その誇り高き後ろ姿には…… あるいはその片思いに 一切の"脈"なし!!! みたいな感じで死に際が言い伝えられてる。今日まで名を残し続けてるだけの状態。名っつーか未練なんだけど。

 たしかにこの状況で、付き合いたいとか呑気なことを考えることは流石になくなった。肉眼ですら見えないような六等星以下の望みに手が届くかもなんて思えるほど、おめでたくもないし楽天的でもない。けど、この戦争を終わらせにきた、とか言いながらミヤタっつー名の四皇が堂々と戦場に乗り込んできて、トチ狂った俺が自分の手でミヤタを刺し殺しちゃった瞬間から、この戦いに終わりなんてなくなったのよ。

 つい先日も、好きな人から直々に、最近(私のこと好きなの)落ち着いてきてない? って訊かれて、あーそれは好き好き言うのをやめたからじゃない? つったら、なるほどーそれでかーって納得してくれた、みたいなハートフルエピソードがあったんだけどさ。気心知れた友達かよっつー話じゃん。お前は当事者だよ。好き好き言ってんのは、惚気とか相談じゃなくって、告白でありアプローチなの。もっかい初めから話そっか? 大丈夫? こんなさ、頭のおかしい無防備な人を放って他に好きな人とか作れる? んなことするくらいなら、大丈夫大丈夫ちゃんと好きだよ、つって、最後はいっそ、馬鹿な息子をそれでも愛そう、って言いながら刺されたい。せめて、お前の手で、つー感じで。

 いや別に脈がないからって落ち込んだり悲しくなったりみたいなことって、この通り、自分でも不思議なほどなくって。つーか多分落ち込めなくなってる自分がいる。悲しくなれないくらい、もう、好きな人のことが好きで、同時にそれを諦めてる。

  あえて不満を挙げるなら、俺のことを放って遠くになんか行っちゃうもんだから、それまで好きな人と遊んでた分の時間が丸々手持ち無沙汰になったってことくらい。俺らって、これまで一二週間に一回くらいのペースで遊んだり飲んだりしてたから、それと同じくらいの頻度でどうしようもなく隙間ができちゃって、別にそれは別の人と会ったり趣味に当てたりでいくらでも埋めようはあるんだけど、なんとなくそれも違うような気がして、ならそんな時は何すんのっつーことで、こんな無益なブログを書いてるわけです。

 深夜の、この誰の気配もない時間帯って、俺がもっとも研ぎ澄まされて爽やかになってる時で、そんな時に思いつくまま文章なんかを書いてると言葉と感覚がどんどん犀利になって、書きたいことが次から次へと溢れてきて、あれもこれも書き留めなければって気持ちになる。きゅるるるるると頭の中で音が鳴って脳みそが熱を持つ頃には、言葉にドライブ感みたいなものが生まれ始めて、その速度の中でだけ、これまで漠然としてた自意識が像を結び始める。だから俺は、なおさら言葉を尽くすことで、その自意識の解像度をあげようとする。

 その過程は俺に、まるで自分一人でも生きていけるような万能感に似た慰みを与えてくれるんだけど、けどそこにはもう好きな人なんて存在していなくて、結局、好きな人が存在しないという前提に立っただけの、まやかしの力だったりする。なんか難しい話になってきちゃったけど、ことは単純で、つまりはどんどん独りよがりになってくっつー。そういうのって付き合っててもあるじゃん。考えすぎるせいで束縛しちゃったり、逆に気を遣いすぎて何も言えなくなったり、そういう相手が不在の身勝手さって。

 それと同じで、画面に溢れ見えてく好きな人への思いとは裏腹に、どんどん独りっきりになってって、自分の中から失いたくなさみたいな気持ちが薄れてゆく。好きな人が現実のどこにいようと何をしてようと、こんなにもちゃんと好きなままいられんなら少しも問題じゃねーよ、みたいな感じで。好きな人の一挙手一投足に拘って、一つの瞬間のことを擦り切れるくらいこねくり回して考える度、空気抵抗が無い場所で人を思うように、小さな力でいくらでも滑っていって、本当の好きな人からは遠のいてゆく。好きな人が不在のまま、俺の思いだけが膨んで先走って、ふと我に返って振り向くと随分遠くに好きな人が居るような。

 だからさ、これは別に今病んでるとかそんなんじゃないし、むしろ俺がこれまでに書いてきた好きな人に関することって全部、惚気てるくらいの感覚で書いてるんだけど。

 今、午前2時24分で、あと数時間後には起きなきゃなんないんだけど、すっげえ好きな人に会いてー。なあ、お前今、何してんの? ちゃんと眠れてんの? クーラーつけてちゃんと布団被ってる? 引っ越し初日にさ、まだまだ部屋も寒くって、お前がエアコンのリモコンがないっつって電話かけてきてさ、部屋中ひっくり返しながら、死んじゃう死んじゃうってどんどん元気がなくなってく様を何時間も笑いながら聞いてたからさ、またリモコン失くしちゃってないかとかちょっと心配なのよ。ちゃんと飯食ってる? 普段何して生きてんの? ただでさえ貧血気味なのによく転んだり指を切ったりして、いつもどっかから血を流しながら現れるからさ、そういうとこはちょっとじゃなくてかなり心配してる。

 だから一回直接顔を見てさ、許してくれんなら、ちょっとだけ強めに抱き締めたい。あ、いや、これは心配とか全然関係のない、俺の個人的な願望なんだけど。ダメかな? 二秒くらいで離れる予定だけど。好きな人の体温を確かめて、ちゃんと好きな人が生きてんだなってことさえ分かれば、一瞬にして疑いようもなく一直線にまた好きな人のすぐ隣まで戻ってこれる。俺が今どこに居て、好きな人が何をしてても、宇宙を丸ごと分割出来ちゃうような一本線でもって、最短距離で好きで居続けられる。

 最近落ち着いてきたのかな、なんてお前が思ってる間に、俺は何千何万つー文字を重ねて、そこから選りすぐった二文字だけを連れて今日もこっちで生活とかしてるわけ。それをわざわざお前に見せない日もあるってだけ。大丈夫。俺もがんばるから、お前もがんばれ。

 たとえお前が六等星以下のどこにあんのかもわかんねー星だとしても、俺は南の方でぽつんと一人、ちゃんとアピールし続ける。俺はそんな風に、宇宙規模で好きな人のことを全うする。人間規模でならただの馬鹿なんだけど。