ビキニ環礁シンジケート

書くことが楽しい

創作

日々は光って流れた

新しい恋には新しい人がいて、その年の冬に僕がほんの数日だけした勘違いにも、その勘違いと同じくらい甘酸っぱくて眩しい人がいた。 クリスマスにほど近い十二月の金曜日、デート倶楽部で手慰みに買った女の子は僕が指定した通りの制服を着て現れて、ウリな…

勇気のカタチ

僕がこうじ君からその手紙を受け取ったのは、ペナントレース真っ只中の八月のことだった。 「大すきな山本せん手へ ぼくはこんど、手じゅつをしなければなりません。しないと命がたすからないからです。だけどこわくって、一ど手じゅつの日ににげてしまいま…

春の樹からの使者

※今回の記事は、知り合いの某有名作家から身元を明かさないことを条件に寄稿されたものです。 ハンブルグ空港でサンクトペテルブルク行きのボーイング747を待っていると、突然自分がひどく空腹だったことを思い出した。近くにあった適当なカフェテラスへ入っ…

三月三日のセレナーデ

「あなたがこの手紙を読む頃には外はもうすっかり春になっている頃だと思います。去年二人で行ったあの桜並木もそろそろ満開でしょうか。どうですか? 当たっていますか? 一緒に見に行く約束は守れたのかなあ。今こっちはまだ寒くって、だけど病室に射し込…

金木犀は仄かに香って

夏がもうまもなく終わろうとしている九月の夜、ひどく蒸し暑く小雨が降る中、クーラーが壊れたから涼ませてよ、とお酒と花火を持ったひなが僕の部屋へとやってきた。 彼女はクーラーの真下に座り扇風機の首振りを自分のところで止めて、持ってきた缶チューハ…

最後の桜が散るまでに

「あの、よろしくおねがいします」 小さくおじぎをした彼女が少し緊張していたのを覚えている。大学の後輩で、誰かにくっついて、知らない人ばかりの僕らの飲み会にきてくれた子だった。 桜の季節ど真ん中、出会いの春なんてかこつけて失恋したばかりで傷心…